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先入観の持つ危険性

興味深い話を目にしました。
次の文章を読んでみてください。

 ヘレン・ケラーは生まれた時から問題のある子だった。彼女は野蛮で,強情で,乱暴者だった。ヘレンは8歳になっても, まだどうしようもなかった。彼女の両親は彼女の精神衛生をとても心配していた。その州では,彼女の治療のためのよい施設が見つけられなかった。彼女の両親 はついにある処置をとる決心をした。彼らはヘレンの世話をしてくれる家庭教師を雇った。

 さて、ヘレン・ケラーはどうして問題のある子だったのでしょう?
「彼女は耳が聞こえず,口もきけず,目が見えない」というのは答えにはなりません、書かれていませんから。でも、そのつもりで読んでしまった方も多いのではないでしょうか。「野蛮で,強情で,乱暴者だった」のは、「耳が聞こえず,口もきけず,目が見えない」からだと、補完してしまったのです。

 じつはこれ、R・L・クラッキー/箱田裕司、中溝幸夫 訳「記憶のしくみ2―認知心理学的アプローチ」(サイエンス社心理学叢書一九八二年十一月)にも引かれている、Rebecca A. SulinとD. James Doolingによる実験(※)の課題文の一つです。鳴門教育大学大学院の「認知心理学の部屋 認知心理学授業コーナー」の「認知心理学特講の詳しい内容」にも引かれていますが、二つの課題文をそれそれ別の集団に読ませて、理解を問う調査で用いられました。

 もう一方の課題文は、以下のようなものです。
 キャロル・ハリスは生まれた時から問題のある子だった。彼女は野蛮で,強情で,乱暴者だった。キャロルは8歳になっても,まだどうしようもなかった。彼女の両親は彼女の精神衛生をとても心配していた。その州では,彼女の治療のためのよい施設が見つけられなかった。彼女の両親はついにある処置をとる決心をした。彼らはキャロルの世話をしてくれる家庭教師を雇った。

 一方の集団は、キャロル・ハリスについての文章、もう一方の集団はヘレン・ケラーについての文章を読んだことになりますが、固有名詞以外はまったくの同一文章です。そして、これらの集団に対して、実験直後に行なった確認課題では両者に差はありませんでした。ところが、一週間後に「『彼女は耳が聞こえず,口もきけず,目が見えない』の一文が含まれていましたか?」という問いを行ないますと、キャロル・ハリスの名を用いた群 では「はい」が5%であったのに対して、ヘレン・ケラーの名を用いた群では50%が「はい」と答えたのです。

あらかじめ持っていた知識が正確に読み取る目を曇らせた言えますね。
予備知識は読解を助けてくれますが、先入観によって別のストーリーに変えられてしまう危険性もあるということを知っていなければなりません。
書かれた文章から読み取る練習をしっかりした上で予備知識を使うことでバランスのよい読解が可能になるのだと思います。

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